備忘録的 本棚ブログ

読んだ本の感想や書評を備忘録的に書いていきます。本棚の様に積み上げていくつもりです。

ネットよりリアルが大事「弱いつながり 東浩紀」

弱いつながり 検索ワードを探す旅 (幻冬舎文庫)

 

my本棚68冊目は作家・思想家で㈱ゲンロン代表取締役東浩紀さんの本です。
私は著者をネット動画の対談などでよく目にしますが、著作を読んだことがなかったので今回手に取ってみました。単行本は2014年に出版されていますが、文庫本が今年8月に発売されています。

 

どうも著者の本業とする所の哲学や批評といった分野とは違った切り口の本みたいですが、その分読みやすかった印象です。副題の「検索ワードを探す旅」は実質本作の主要なテーマで、結論から言えば自分を変えるには環境を変える必要があり、それには旅が必要と主張されています。

 

慣れ親しんだいつもの環境にずっと身を置いていては、思いつく検索ワードの範囲は広まりません。しかし環境を変化させれば、自ずと検索ワードも変わってくるようです。

 

いまの日本の若い世代――いや、日本人全体を見て思うのは、新しい情報への欲望が希薄になっているということです。 ヤフーニュースを見て、ツイッターのトピックスを見て、みんな横並びで同じことばかり調べ続けている。最近は「ネットサーフィン」という言葉もすっかり聞かれなくなりました。サイトから別のサイトへ、というランダムな動きもなくなってきていますね。

著者は今の日本の現状を以上の様に憂いています。確かにインターネットの黎明期は能動的に情報を探す必要がありましたが、今はテレビと似てきていて、大手サイトなりSNSが次から次へと情報を提供してくれます。その中で自分が特に興味のあるものだけをピックアップする時代。確かにこれでは知識に「深さ」が出て来ないですよね。

 

それを打破するのが旅です。
例えば、「ケーララ」という言葉をご存知でしょうか。インド南部にある州のひとつで、識字率が高く、IT推進地帯となっていて、インドの中では先進的な地域だそうです。また、自然放射線量が高く、一部では双子の出生率が有意に高いのだとか。

私は当然の如くケーララについて何も知りませんでしたが、著者もインドに行って始めて知ったそうです。

 

今はネットがあるから知りたいことは何でも分かると思ってしまいがちですが、実はそれは限られた世界の中の話なのだということがわかります。本当に深い知識を得るには、リアルな体験が必要になるのですね。

 

そしてこの本にはもうひとつのテーマとして福島第一原発観光地化計画」があります。この計画には東さんと同じくネット動画でよく見かける(テレビにも出ていますし、それ以上にツイッタ―で超有名ですが)津田大介さんらも参加されています。

プロジェクトについて 福島第一原発観光地化計画ポータルサイト | 株式会社ゲンロン

 

観光地化と聞くと、とんでもないことの様にも思えますが、これは事故を風化されないために必要な取り組みなのではないでしょうか。実際、1986年に原発事故が起きたチェルノブイリでも、事故現場付近まで除染がされていて、観光することができるのだそうです。

 

この「観光地化」も、ただネットで調べるのではなく、観光してリアルに体験するからこそ得られるものがあると考えてのことでしょう。今すぐには難しくても、事故が風化してしまう前に、観光地化して後世に残す必要があると私も考えます。

この本を読んで今までになかった視点を得られたような気がします。ぜひ手に取って見て下さい~。