備忘録的 本棚ブログ

読んだ本の感想や書評を備忘録的に書いていきます。本棚の様に積み上げていくつもりです。

【101冊目】それぞれの正義がぶつかる「銀河英雄伝説5 風雲篇」

銀河英雄伝説〈5〉風雲篇 (創元SF文庫)

 

my本棚101冊目は月1ペースで読み進めている銀河英雄伝説の5巻です。
全10巻なので、今巻は前半のクライマックスにあたると思うんですが、まさにクライマックスという言葉が相応しいスリルさとダイナミックさがありました。

 

サブタイトルの「風雲」を辞書で調べてみると、文字通り風と雲、という意味のほかに、事の起こりそうな情勢とか、竜が風と雲とを得て天に昇るように、英雄・豪傑が頭角を現す好機などという意味もあるようです。事は起こりまくりますし、頭角も現わしまくってましたw

 

<あらすじ>

フェザーン自治領を掌中に収めた帝国軍は、自由惑星同盟の首都ハイネセンの目前まで迫っていた。ヤンは躊躇うことなくイゼルローン要塞の放棄を決断、民間人を保護しつつ首都へ向かう。同盟が勝利するための唯一の方策、即ちラインハルトを直接戦場で討ち取るために。数に於いて圧倒的優勢を誇る帝国軍に対して、ヤンは力量の差を見せつけるように、奇策を用いて帝国の智将たちを破っていく。そしてヤンの思惑を見抜いたラインハルトは、あえて正面決戦を選んだ。かくして“常勝”と“不敗”は再び戦火を交える。勝者となるのは果たしてどちらか?

 今巻では同盟軍の主役ヤンと帝国軍の主役ラインハルトが真正面から戦うことになります。“常勝”対“不敗”というフレーズの格好よさ…著者の田中芳樹さんならではの言葉のチョイスも光りますね。

 

さらにはついに今巻で両者が面と向かって会話をすることになります。その時交わされる言葉は、この作品が単なるSF小説ではないことを表していると思いました。

ラインハルト 自由惑星同盟を私の手に売りわたしたのは、同盟の国民多数がみずからの意志によって選出した元首だ。民主共和政とは、人民が自由意志によって自分たち自身の制度と精神をおとしめる政体のことか。

<中略>

ヤン 人民を害する権利は人民自身にしかないからです。<中略>まさに肝腎なのはその点であって、専制政治の罪とは、人民が政治の害悪を他人のせいにできるという点につきるのです。その罪の大きさにくらべれば、100人の名君の善政の功も小さなものです。まして閣下、あなたのように聡明な君主の出現がまれなものであることを思えば、功罪はあきらかなように思えるのですが……

 単なる宇宙を舞台にした戦争なのではなく、帝国には帝国なりの、同盟軍には同盟軍なりの政治的主張や正義があるということです。もちろんこれは小説の中だけの話ではなく、現実世界においてもそれぞれの正義があって争いが起きているのだと思います。

人民が自身をおとしめることさえも自由というのが民主主義。他人のせいにして責任を回避でき、名君さえいれば平和や秩序が保たれる独裁体制…。著者はこの作品を通じてほんとうの正義とは何なのかを語りかけてきているようにも感じられます。

 

読み進めるほど奥深い面白さがあります。ぜひ読んでみて下さい!

 

銀河英雄伝説〈5〉風雲篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説〈5〉風雲篇 (創元SF文庫)

 

 kindle版はこちら 

銀河英雄伝説5 風雲篇 (らいとすたっふ文庫)

銀河英雄伝説5 風雲篇 (らいとすたっふ文庫)