備忘録的 本棚ブログ

読んだ本の感想や書評を備忘録的に書いていきます。本棚の様に積み上げていくつもりです。

壊すよりも生み出すのが大事「呪いの時代 内田樹」

呪いの時代

 

my本棚79冊目は内田樹さんが2011年に出版した「呪い」についてのエッセイです。
wikipediaによると内田さんは哲学研究者であり、コラムニストであり、思想家、倫理学者、武道家、翻訳家…と幾つもの肩書をお持ちです。

 

今回の本はテーマが「呪い」ということもあり、エッセイとしては文章が高尚でやや難解です。私は内田さんの著書を初めて読んだのですが、言葉遣いが決して簡単ではないものの、その意見の至極まっとうな所にひかれました。

 

この本のタイトル「呪いの時代」の「呪い」とは、何かを「壊す」ことを指しています。何かを「創造」するよりも「壊す」ことの方が優先されている時代なのです。

人はネット上で意見を押し付け合っていますし、リアルの世界でも時に言葉の暴力を奮います。また、政治においても足の引っ張り合いの様な論争が目立ちます。

「壊す」ことも「創造」することも何かを変化させるという意味では似ていますが、壊す方がはるかに簡単で、達成感を得やすいため、壊す方に力が傾いているのです。

全能感を求める人はものを創ることを嫌います。創造すると、自分がどの程度の人間であるかがあからさまに暴露されてしまうからです。だから、全能感を優先的に求めるものは、自分に「力がある」ことを誇示したがるものは、何も「作品」を示さず、他人の創り出したものに無慈悲な批評を下してゆく生き方を選ぶようになります。自分の正味の実力に自信がない人間ほど攻撃的になり、その批評は残忍なものになるのはそのせいです。

 

また、この本は2011年に出版されたものなので、東日本大震災についても触れられています。著者は原発事故に関して独自の視点を披露しています。

原子力というのは、いわば「荒ぶる神」である。だとすれば原子力テクノロジーとは、その荒ぶる神の「祀り方」にかかわる技術問題である。そうである以上、原子力はそれぞれの社会において、そこに蟠踞する「神霊的」なもののメタファーに即して語られるはずである。

一神教文化圏であるヨーロッパでは、原発が「神殿」を模して建てられており、神殿としての原子炉、周囲何十キロかは「神域」として近づけないものとしています。

それに対し日本は、神仏習合以来、「恐るべきもの」に装飾、彩色をして「恐れるべきかよくわからないもの」に仕立てあげてしまいます。「原発は金になる」という言説を利用して、恐怖心を和らげようとしたのです。

原発を恐怖のあまりぞんざいに扱ったその結果が今で、罰が当たったのだと著者は主張しています。その様な見方があったのかと感心させられました。

 

余談ですが、キリンジというバンドに「祈れ呪うな」という曲があり、原発を想起させるような詞がつけられています。


キリンジ「祈れ呪うな」MusicVideo(short ver.)

この曲も内田さんの言説からインスピレーションを受けて作られたのかなと思いました。

 

東浩紀さんの本を読んだ時も感じたのですが、いわゆる思想家さんの著作は使われている言葉が難しいけれども、その分読んでいて頭が活性化していく気がします。物事をより深く考えられるようになると思いますので、ぜひ読んでみて下さい。

 

呪いの時代

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呪いの時代

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